ドヴォルザークの新世界交響曲を生演奏で聴きたかったので、はるばる鉄道を乗り継いで刈谷市まで出かけた。
我が家にまだステレオのなかった子供の頃、卓上のレコードプレイヤーで何度も聴いていた。カラヤン指揮ベルリンフィルのLPレコードだった。
親しみやすい旋律と勇壮な金管楽器の響きに心を奪われ、いつかはもっといい音響装置で聴いてみたいと夢見ていた。
その後夢は現実となり、折に触れ聴いてはいるが、かつての感動は何故か風化しつつある。音楽に感銘を受けるのは音響の良さではなかった。
旅先での夕暮れ時、子供たちが家路につく。夕餉の支度をする家からいい匂いが漂ってくる。
街に音楽が流れる。新世界の第2楽章「遠き山に日は落ちて・・・」に心を揺り動かされるのはそんな場面だ。
生演奏でしか気付かないことは多い。
40分を超える演奏時間中、シンバルの出番は最終楽章にたった1度だけ。通常なら派手に打ち鳴らす楽器なのに、実に控えめな音量だ。どうかすると聞き漏らす。
シンバルの奏者は、出番の来るまでひたすら待ち続けるのみ。
第3楽章が終わったタイミングで舞台袖からしずしずと登場するのか。
心配無用。第3楽章で何度も鳴らされるトライアングルと掛け持ちだった。
打楽器奏者は、客席から見て舞台最後方に並ぶので、今まで気が付かなかった。
(2024年3月11日 刈谷市総合文化センターアイリス 大ホールにて)