大江健三郎 「われらの時代」
最初に読んだのは十代の最後の頃だった。内容はすっかり忘れたが、後味が悪かったという印象だけが残っており、読む前から何となく気が重かった。
若い頃にこれを読んで何か得るものがあったのだろうか。「後味が悪かった」だけとは情けない。
この作品に限らず、人生の糧となる何物かを得ようという意欲に欠けていた。
副作用の強い劇薬であっても、読み手の感覚が鈍くなり、人生の最終コーナーに差し掛かった今日、冷めた心と眼で読めるようになった。はたしてこれは進歩なのか、退化なのか。毒にも薬にもならなかった。
「遅れてきた青年」と同様、青少年諸君には有害図書として作用する恐れがある。
よほど大江健三郎という作家に関心があるか、「敵は幾万ありとても・・・」の精神の持ち主でない限り、お奨めできない。
ノーベル賞を授けられるだけの作家であることは、あらためて率直に認めたい。