感想を述べたくなった読書は久しぶりだ。
初版は昭和31年、舞台は北海道の釧路である(但し、本文に釧路の地名は出てこない)。
映画化され、TVドラマにもなった。
街のざわめき、季節の移ろい、氷点下の大気のほか、喫茶店のコーヒーの香り、煙草の匂いまでが行間から伝わってくる。
無性に釧路へ行きたくなった。街をさまよい歩き、時間が許せばその背後に広がる釧路湿原も。昭和30年当時の面影を追い求めてみたい。
釧路は過去に2度訪れたことがある。「挽歌」を最初に読んだ時から日が浅かったが、ただの通りすがりの旅人に終わってしまったことが、今となっては惜しまれる。
この作品は、今風に言えばW不倫の物語であり、主人公たちに共感の余地はない。
あの時代にあれだけ自由奔放に行動することのできた女性が、東京から遠く離れた地方都市に存在したのであれば、私の認識不足だった。
(釧路 昭和49年9月撮影)